二足歩行の人間の足ではたくさんの骨が集まって、レンガが組み合わさるように縦方向横方向にアーチ構造となっています。アーチ構造は上方から押される力に強いので、立位保持や歩行時の荷重負荷に耐えられるようになっているのです。
怪我や加齢によって足のアーチ構造に歪みが生ずると、体重の負荷で痛みが出るようになり、立位保持や歩行に支障をきたします。また、特に原因がなくても個人の体の特質として扁平足があったり、遺伝的な体質で若くても外反母趾になる方のように横アーチ構造がくずれたり(開張足と言います)することもあります。
縦方向、横方向のアーチ構造が歪んだり変形したりした時には足底挿板(インソール)を靴底に入れることで荷重負荷がバランスよく分散されて痛みが和らぎ、変形の進行を防ぐことができます。外反母趾や扁平足に足底挿板(インソール)が使われることは有名ですが、足底腱膜炎や、足の甲が高くなる凹足(ハイアーチ)にも足底挿板(インソール)が使われます。また、変形性膝関節症によるO脚変形のように、下肢の関節不安定性に対しても足底挿板(インソール)は非常に有効です。
小児のO脚やX脚、内くるぶしが沈み込んでしまう足関節の外反扁平足にも足底挿板(インソール)が使われます。また、成長期のスポーツ選手によくみられる有痛性外脛骨障害や、踵骨若年性骨軟骨症(シーバー病)などを治すにはスポーツを休む安静が基本と思われがちですが、足底挿板(インソール)を使い、体幹や四肢の筋力バランスを整えるリハビリテーションを行うことで、怪我の予防をしながら貴重な成長期のスポーツを継続することができるのです。
足底挿板(インソール)を靴底に入れるとそれまで感じていた痛みが改善するだけではなく、足に体重がかかった時になんとも言えない心地よさを感じます。これは荷重負荷がバランスよく分散される状況を取り戻したときの感覚なのです。このときに足を一歩前に出そう、もっと歩こうという命令が、脳から出されるのだと思います。歩くことに対するハードルが下がったことで、日常生活の中で歩くという習慣が自然と身につくようになるのです。これは、人生においてとても大きな意味を持つことになります。なぜなら、1日1日の歩く生活が毎日少しずつ積み重なってゆくことで健康維持につながり、結果として何十年という間にはメタボやフレイル予防へと導いてくれることになるからです。
私自身も小さいときから開張足、外反扁平足で、ウオノメができて悩まされました。もともと走ることは苦手ではなく筋力にも恵まれていたので辛いと感じたことはなかったのですが、フルマラソンを走るようになって足の痛みを何とかしたいと思うようになり、足底挿板(インソール)を作製しました。この時の感覚が、先述した「何とも言えない心地よさ」でした。仕事の時には仕事用の靴に、走る時にはランニングシューズに足底挿板(インソール)を入れ替えて使っています。今では、フルマラソンの途中に痛くて歩いてしまうということがなくなり、ゴールまで走り続けられるようになりました。また、足底挿板(インソール)のおかげで、足にタコやウオノメができることもなくなりました。
先ほど述べたように、足底挿板(インソール)を使うことで歩くことへのハードルが下がることから、整形外科で下肢のなかでも特に膝や足首、踵からつま先に痛みをかかえて受診されるほぼ全ての方に対して、足底挿板(インソール)を使うことは有効であると考えます。視力の調節障害の方が眼鏡をかけるように、荷重負荷分散のバランス調整に足底挿板(インソール)を使うことは、長い目で見れば必ずしも高価なものではないのです。しかもリハビリテーションと併せて治療をすれば、もっともっと効果的です。
皆様、是非当院で足底挿板(インソール)を作製されることをお勧めします。